INQUISITION Review

コロンビアのブラックメタルバンド Inquisition の 1st『Into the Infernal Regions of the Ancient Cult』をレビュー。1998年リリース。レビューするのは Season of Mist の2015年リマスター再発盤。

現在はUSシアトルを拠点とする2人組ブラックメタルバンド。1988年の結成当初は Kreator もどきのスラッシュメタル。90年代中頃よりブラックメタルへと変遷。当代の南米らしい無茶な音を出していたが、どうしてこうなったか本作でとんでもなく不穏な独自のブラックメタルに結実。

ベスチャル・ブラックメタルっぽさを微かに残しつつ激音を宗教儀式めいた雰囲気で包みこんで整えた異端性の高い作風。音質ではなく音楽性で地下臭さを発散している。感情の欠けた気味の悪いボーカルがミドルテンポ基調の陰鬱な曲調の上で喉を鳴らす。「異端審問」の名に相応しい音である。

音から感じとれる影響は Mayhem、Immortal、Burzum、Samael、Rotting Christ などだろうか。しかし、それらのバンドとは全く違う音楽性。ブラックメタルらしいトレモロリフを主軸にせず不気味なアルペジオや単音フレーズを絡めた重いシンプルなリフを繰り返し闇を描く。明確な訴求点がわからないのでお勧めしにくい異端作品。カルトの一端を垣間見たい方は是非。

Inquisition の 2nd『Invoking the Majestic Throne of Satan』をレビュー。レビューするのは Season of Mist の2015年リマスター、デジパック再発盤。元は古風なブラックメタルジャケットだったが再発盤は1st、2nd が似たようなジャケットになってしまっている。

内容は前作 1st『Into The Infernal Regions Of The Ancient Cult』と殆ど同じ。前作が嵌まった方ならこちらも大丈夫だろう。相変わらずこってり濃厚な陰鬱暗黒音を聴かせてくれる。前作との違いはツインボーカルとブラストビートの使用が若干多くなった程度。

ドロドロの澱んだ空気感は決して高揚感の類を感じさせない。ぶっ飛んだ個性を完全に確立してしまっている。ブラックメタル愛好家でも好きか嫌いかはっきり分かれる音だろう。

#6. "Hail The King Of All Heathens" のメロディアスなギターソロはわずかに外気が通り抜けるようで一息つけてありがたや。束の間すぐに奈落に叩き落とされる。息継ぎのために水面に顔を出したところに水をぶっかけるような容赦のなさはさすが。

コロンビアのブラックメタルバンド Inquisition の 3rd『Magnificent Glorification of Lucifer』をレビュー。レビューするのは Ultrametal Productions からの2015年再発盤。

作風は前作からまったく変わらない。決して人の気持ちを前に向かわせない濁った空気感が纏わりついてくるような音は 1st『Into The Infernal Regions Of The Ancient Cult』から一貫している。これは人と会う予定がある日には聴かない事。面接やお見合いの日などは以ての外だ。その日の内にお断りの連絡が入るだろう。

音質の向上で音圧が増したのとストレートなトレモロリフの比重が増えたのでわかりやすい烈しさは以前より高め。その分だけ宗教儀式的な雰囲気が抑制されて全体的に地味な印象を受ける。ただし、それも以前の作品に比べればの話。凡百のバンドと比べれば異常性は未だ孤高の域にある。

コロンビアのブラックメタルバンド Inquisition の 4th『Nefarious Dismal Orations』をレビュー。2007年リリース。

誰も幸せにしない陰鬱ブラックメタルは健在。聴いていると気分が沈んで後の作業に支障が出るので早目にレビューを済ませてしまいたい気持ちでいっぱいだ。相変わらずアルバム名も曲名も長い。周りくどくて結局何を言いたいのかわからない新卒の仕事相談みたいで困る。

アクの強さを増した Dagon のボーカルはもはや爬虫類の類にしか聴こえない。本作では檄重リフによるミドルパートの澱みがいままで以上で病みっぷりが尋常ではない。特にタイトルトラックと #9. "Before the Symbol of Satan We Bow and Praise" は息苦しくなる程。元々、一癖も二癖もあったが更にその特異性を増した印象。

このバンドにしては小ざっぱりとしていた前作より良い曲が多い。本作のスタイルで 1st『Into The Infernal Regions Of The Ancient Cult』の頃の単音を交えた不穏なフレーズを取り戻すともっと面白くなりそうだが。

コロンビアのブラックメタルバンド Inquisition の 5th『Ominous Doctrines of the Perpetual Mystical Macrocosm』をレビュー。2010年リリース。レビューするのは2011年の Hells Headbangers Records 盤。

嫌がらせじゃないかと思う程のタイトルの長さはさておき密教臭や音の畝りが初期作の不気味さを思い出させてくれる 5th フルアルバム。澱んだ深淵に引きづり込まれるような曲が並ぶ前半は1st『Into The Infernal Regions Of The Ancient Cult』、2nd『Invoking The Majestic Throne Of Satan』期の作風にかなり近い音。

久しぶりに登場するクリーントーンの調べや女性の罵り声にハッとさせられる。初期作の徹底した陰鬱音が好きな方には堪らない展開だろう。音が分厚さを増しており激烈疾走パートと沈鬱スローパートの落差が大きい。

後半には北欧ブラックメタル風のメロディのあるリフやスラッシュメタルパートなど新しい試みも見られる。それらがこのバンドの異端性を阻害しない程度に導入されているのがミソ。異端が正統を呑み込みその領域を広げ始めた快作。

コロンビアのブラックメタルバンド Inquisition の 6th『Obscure Verses for the Multiverse』をレビュー。

遂に Season of Mist からリリースするまでになった異端ブラックメタルバンド（その後に紆余曲折あった模様）。もはやこのバンドが音楽性を転換することなどあり得ない。内容はいつもの Inquisition でファンは安心して手を出せる。

緩急自在にジワジワと暗黒を描く音楽性は従前通り。所々で出てくるウニョウニョした音が気持ち悪くて中々良い。ブラストビートの鋭さが一段増した印象。バラバラと爆音を撒き散らす爆走パートとスローパートの澱みの対比で音が大きくうねる。

このバンドの魅力を存分に詰め込んだバランスの良い作品。筆者なら Inquisition 未経験者には最初に本作をオススメするだろう。Inquisition らしい暗さはそのままに空想的な美しさも持つ #8. "Inversion of Ethereal White Stars" は新機軸な曲で気に入った。

コロンビアのブラックメタルバンド Inquisition の 7th『Bloodshed Across the Empyrean Altar Beyond the Celestial Zenith』をレビュー。2016年リリース。

突き抜けたタイトルと曲名の長さ。各単語の意味はわかっても何のことかよくわからん所が異端。13曲1時間近くのランニングタイム。イントロとアウトロのある構成。宇宙論的コンセプト作なのかいつになく壮大な作り。これ程の大作は 1st『Into The Infernal Regions Of The Ancient Cult』以来。

表面的には音が洗練されて気持ち聴きやすくなった部分もあるが根底に流れる淀んだ空気感に変わりない。音楽的作風はこれまで通りの Inquistion。ほんと〜に僅かずつだが作風を広げ続ける姿勢も変わっておらずアトモスフェリック・ブラックメタル的なスケール感がより増したように感じる。

後半は Inquisition ならではの暗黒ドラマにドップリ浸かれる高闇度の劇的曲がズラリ。神聖な響きすらある #6. "The Flames of Infinite Blackness Before Creation" とタイトルトラックが秀逸。#5. "A Black Aeon Shall Cleanse" 2:20〜からの「ヴィィィィィィイイ」も聴き処。前作『Obscure Verses For The Multiverse』同様の秀作。

コロンビアのブラックメタルバンド Inquisition の 8th『Black Mass for a Mass Grave』をレビュー。2020年リリース。

4年ぶりの新作。スローテンポを中心としたよりメロディアスな作風に変化しており大きく印象が変わった。前作『Bloodshed Across The Empyrean Altar Beyond The Celestial Zenith』で聴けた奥行きのある音のまま内省的になった感じ。フワフワと漂うような音に包まれる。

ブラストビートと分厚いリフによる轟音が消えて攻撃性が大幅低下。リフやメロディはこれまでの Inquisition のそれだが優しくロマンティックな雰囲気を醸している。以前のような暗鬱とした澱みは感じられない。最初に聴いた時には The Gathering『Always』を思い出したりした。Fear Factory みたいな浮遊感を感じる箇所もある。

前作で浮いた感じのあった曲 "The Flames of Infinite Blackness Before Creation" の方向に舵をきった感じか。斜め上の方向に独自性を切り開こうとする異端作品かもしれない。面白い事になってきた。

似た感じの曲が多いのと1時間越えの長丁場が難点。#3. "Necromancy through a Buried Cosmos" の儚さが堪らない。