AARA Review
So Fallen Alle Tempel
Aara の1st『So fallen alle Tempel』をレビュー。CD派の筆者は300枚限定のデジパックCDをBandcampで購入。
2019年3月スイス連邦共和国から現れた新星による傑作デビューアルバム。こりゃ〜驚いた、ブラックメタルの新たな深化を感じさせてくれるバンドである。
轟音の中をクラシカルなメロディが交錯乱舞する爆走アトモスフェリックなブラックメタル。音の洪水に流され別世界に誘われる、映画のサントラ顔負けの壮大なスケールの音楽性。
クラシカルなメロディが描き出す勇ましく雄大な世界観が素晴らしい。同郷の Darkspace 系の音楽性だが Aara の方がよりクラシカルで優雅な広がりのある音をしている。最近のバンドだと Strigae や Acathexis に近い音楽性。
ボーカルは喚き散らすタイプだが脇役程度の存在。淡々と突っ走るドラムも機械的でプログラミングだと思われる。主役はやはりギターとシンセサイザーで、溶け合ったり競い合ったりするかのようにメロディを紡ぎ世界観を醸成していく。
ギターとシンセサイザーの境が不明瞭になる場面があるがこれはギターシンセサイザーだろうか?妙にギターのアタック音が小さくシンセと混じり合いたくさんの音が混然一体となって迫ってくるように聴こえる。
歌詞がなくテーマはタイトルから想像するしかないが、自然・アニミズム系だろうか。"雨の残骸"、"山の独白"、"アーレ川" などの(意訳)タイトルを見ると強ち間違ってもいない気がする。
名曲揃いの5曲40分。景色の良い所で大音量で聴く事をおすすめしたい。
Anthropozän
- Anthropozän (I&II)
Aara のEP『Anthropozän』をレビュー。スイスの2人組ブラックメタルバンド。
傑作だった前作 1st『So fallen alle Tempel』 からわずか数ヶ月で新作を出してきた。EPとなってはいるが収録されているのは "Anthropozän (I&II)" と名付けられた11分近くある長尺曲1曲のみ。名前から察するに2部構成の曲なのだろう。このEPは Bandcamp から入手可能。
初っ端から幾重にも重ねられた音の波が暴虐的に爆走しまくる。それでいて情景描写は雄大で臨場感に溢れる。あの『So fallen alle Tempel』の感動が蘇ってくる。音楽性に変化がなく一先ず安心。
だが本EPの曲 "Anthropozän (I&II)" が同じように感動的かと言うとそうでもない。部分部分を取り出すと上述の通りで相変わらず素晴らしいが、曲間に何度も蛇足(セリフや雷鳴など)が挿入されていて切り貼りしたような曲構成は頂けない。前後で曲の雰囲気があまり変わらないのでどこまでが1部なのかさっぱりわからない。
また、ここまで雄弁な音でダイナミックな構成になってくるとギャアギャアと喚き散らすだけのボーカルに工夫が欲しくなる。
と言っても Aara らしいリバーブの効いた音像の中で轟かせる爆走リフのカッコ良さに変化はない。『So fallen alle Tempel』を気に入った方なら失望させられる事はないはず。
En Ergô Einai
- Arkanum
- Stein auf Stein
- Aargesang (Aare II)
- Entelechie
- Telôs
スイスのブラックメタルバンド Aara の 2nd『En Ergô Einai』をレビュー。2020年リリース。
クラシカルなメロディを轟音にのせて壮大な世界観を描くアトモスフェリック・ブラックメタルは不変。前作『So Fallen Alle Tempel』で虜になった方が失望することはないだろう。前作より曲がコンパクト。ザラつきの抑えられたギター音になって耳障りは大分良い。
18世紀欧州の啓蒙時代にインスピレーションを受け云々ということで今作は哲学的な小難しいテーマを扱う。其れゆえか音の醸す世界観は前作とは若干違う。自然の過酷さ美しさを描き出したような雄大な前作より暗いメロディが増えた印象。テーマに沿ったものなのだろうが後半は特に暗め。
とはいえ轟音疾走スタイルが変わったわけではなくスケールの大きさは凡百のバンドには到底及ばないレベル。優しく暖かみのあるメロディが胸に迫る #2. "Stein auf Stein" は名曲。長尺曲の #1. "Arkanum" と #5. "Telôs" も劇的極まりない。『So Fallen Alle Tempel』の衝撃には劣るがこれも優良作。
Triade I: Eos
- Fathum
- Tantalusqual
- Naufragus
- Nimmermehr
- Das Wunder
- Effugium
スイスのブラックメタルバンド Aara の 3rd『Triade I: Eos』をレビュー。2021年リリース。
轟音で爆走するアトモスフェリック・ブラックメタルで壮大な音世界を描く作風は不変。デビューから毎年リリースを続ける多作っぷり。にも関わらずその芳潤な旋律による心象性は衰える様子はない。
ドラマーが加入して3人体制となって初作品。本作はゴシック小説『放浪者メルモス』に触発された作品だそうだ。優雅で雄大な 1st『So Fallen Alle Tempel』、静寂部と暗いメロディが物悲しい 2nd『En Ergô Einai』。本作はどちらかと言うと 2nd より。
Aara の評価点はメロディによる情景描写が肝。本作では青臭いメロディラインが目立つ。所によってはかなり臭みを発する。轟音によって不鮮明だが90年代のポップ・パンクを思わせるようなコード進行さえある。
1st のようなクラシカルな感じは薄く、同じ暗めの世界観でも 2nd とは趣を異にする。郷愁に浸りながら轟音に晒されるような感じ。面白いのは #3. "Naufragus"。最後1分で急に無慈悲な暴虐性が表出。普段は見せない1面を垣間見せる。
近年のバンドの中ではズバ抜けた個性と説得力を持つアトモスフェリック・ブラックメタル。ところで Metallum の写真が猫に変わったのは一体何だろう???エイプリルフールだからか。